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ペットとの生活

ドックトレーナー直伝! しつけのコツ

しつけから学ぶゴハンの与え方

第81回 しつけから学ぶゴハンの与え方
2017/12
第81回 講師 鈴木 拓真先生
岡本 雄太先生
鈴木 拓真(すずき たくま)
犬のしつけ方教室スタディ・ドッグ・スクール®
神奈川県相模原市中央区氷川町3-3 コーポオクモリ1F  TEL:(042)-712-9148
■ドッグトレーナー
麻布大学 獣医学部 動物応用科 卒業
JAPDT:NPO法人日本ペットドッグトレーナーズ協会 所属

 意外と多いご飯に関するお悩み事…うちの子は食べるのが早すぎていつもお腹が空いて見える、逆に、ご飯を残したり食べムラがある、ご飯の時間くらいになると騒ぎ始めて困ってしまうなど、ご飯に関するお悩みを色々と飼い主の皆様からお聞きします。毎食しっかり満足する食事を提供したいのはどの飼い主の方も一緒だと思います。満足させる食事環境を提供するためには、まずは、犬が食事というものはどのように考えているのか犬の行動特性をヒントに紐解いていきたいと思います。

犬にとっての食事とは?
人と一緒に暮らす前の犬たちはお腹が空くと獲物を捕らえるために狩猟をしていました。下記のような流れを経てようやくご飯を食べることが出来ます。さらに付け加えると、少しグロテスクなお話ですが、捉えた獲物を食べるときには、獲物の皮膚を切り裂き、中身を引きずり出して食べるので時間がかかります。犬たちのいたずらの中で、人形を壊して中身の綿を出してしまったり、ティッシュ箱からティッシュを全部抜き取ってしまったり、部屋中に散らばっていた経験はありませんか?人間にとっては掃除も大変ですし、変なものを飲み込んでいたらどうしよう!など心配事は絶えませんが、犬たちにとっては、人形やティッシュは獲物に見立てていただけで、逆に狩猟欲求を満たしているのかもしれません。

少し話は逸れてしまいましたが、今現在、人と一緒に暮らしている犬たちの食事の過程はというと・・・ご飯の時間になると、飼い主さんが台所で食器にご飯を準備しているのを涎を流して、今か今かと待ちわび、器を置いた瞬間ガツガツと 1 分もしない間に食べてしまうといった状況ではないでしょうか。ご飯を獲得する時間は飼い主さんが準備をする時間待てばよいですし、ドライフードのサイズは小さいので噛まずに飲み込むことだってできます。
野生の頃や、まだ犬たちに仕事が割り当てられていた時代には、ご飯を食べるまでに時間がかかりました。よく運動して、ご飯を食べて満足気に鼻を鳴らして休息していた姿を想像することが出来ます。今の犬たちはそれまでの過程が省略されているし、ご飯も食べやすいので、早食いが出来る環境が整っているわけです。人の食事でも、早食いは満腹感を得ることが難しく、食事が終わってもまだ食べたりないので、余計なものを食べてしまい一日摂取カロリーを越え太ってしまいます。満腹感を刺激するためには、時間をかけ良く咀嚼して食事をすることが 重要です。まさに早食いの犬たちは満腹感を感じる前に食事が終わってしまうので、際限なくご飯をおねだりしてくるようになりますし、食が細い犬たちにとっては、ご飯を食べる前の運動量が少ないことが原因の場合もあります。なので、犬に満足させる食事環境を整えるためには、運動量を増やすことと、食事をゆっくり食べさせることがポイントになってきます!

ご飯前のお散歩を上手に活用!


犬の本能的な欲求を上手に発散させるためには、一緒に遊んだり、犬の欲求を満たせる玩具を与えることで短い時間でも満足させることは可能です。元々犬は狩猟をしていた動物なので、走る、噛みつく、吠える、匂いを追跡するなど狩猟に関連する行動、つまり、上記の捕食行動(狩猟を模倣)を体現させてあげることがポイント。ご飯の時間の前にお散歩へ行くことがあると思いますが、ただ歩くだけではなくて、お散歩コースの途中に犬と遊ぶ時間を作ったり、お散歩から帰ってきてから庭や部屋の中で遊ぶことでも良いと思います。

過去の記事に掲載されているので参考にしてください。
第 16 回 魅力的な遊びを実践!①~おもちゃの管理を心がけよう!~
第 43 回 雨の日でも楽しく遊べる!「宝探しゲーム」を教えてみよう
第 68 回  噛み癖のしつけ

ポイント!
犬たち全部がガツガツ早食いするわけではありません。中にはカリカリ咀嚼して時間をかけて食べたり、残したりする犬たちもいます。他の動物種では猫などはご飯を置きっぱなしでも、少しずつ食べる習性をもっています。犬の種類の中でも、ある研究ではバセンジーなどの古い犬種は、食料が絶えずあるような環境では少しずつ食べるようになる報告もされています。食が細い犬たちは自分の運動量に見合ったカロリーを摂取しているのかもしれません。ご飯をよく残す犬たちには、食前の運動を取り入れることで食欲が増加することがあります。よく、ドッグフードを食べないから、大好きなオヤツを混ぜて与えることもあると思いますが、結局オヤツだけ食べてドッグフードを食べないとか、えり好みするようになり、結果、栄養の偏りなど出てしまうので、健康を損なってしまうことになるケ ースもあります。犬の好きなものを混ぜて食事内容を豪華にするのではなく、犬の食事過程を見直すことで食事を満足できるものとして考えることが重要です。

ご飯をゆっくり食べさせる方法!?


本能的な欲求を十分に満たすことが出来たら、次は安心して食事が出来る場所を部屋の中に作ってあげることが重要です。そこで、ご飯ついでにハウストレーニングしてみましょう。ハウスになかなか入れないなど悩みを持っている飼い主さんも居ると思います。ハウスの中は楽しく食事することが出来るとか、安心して休息できるとイメージさせることができれば、ハウスに入ってもらいたいときに素直に入ってくれるようになります。また、フードを詰められるオモチャを利用することで、食事のスピードをコントロールできるので、早食いの犬には試してみても良いのではないでしょうか。フードを詰められるオモチャを使えば、噛みついたり手を使ったり、舌を使って工夫して食べます。その動作は獲物を食べている感覚を疑似体験できて、ご飯をゆっくり食べられるのでより満足感を感じさせやすくなると思います。

過去の記事に掲載されているので参考にしてください。
第 1 回   ここぞ!!で使えるハウスのトレーニング
第 58 回 上手なお留守番が出来るようになろう

また、気を付けてほしい点として、たとえ気を許した飼い主さんでもご飯を食べている最中に邪魔されることは犬にとっても嫌なことです。ご飯を食べているときに触ったり、器に手を伸ばしたり、邪魔をすることは避けましょう。
食事は犬にとって生命を維持するために必要不可欠なことです。特にご飯の前の「待て」などがそうなのですが、ご飯が入っている食器を目の前にして不必要に待たせる時間が長かったり、食事中に食器を取ったりすると、犬はなぜ大切な食料を飼い主さんは与えてくれないのか理解が出来ず、深刻な状況になると食器の占有性攻撃行動といって、食器を守るために噛みついてくる行動に発展するリスクもあります。ただ、パピートレーニングの中で、食器の占有性を持たせないように、器に手を伸ばしても平気にさせるトレーニングはありますが、あくまで食事が終わった後に食器を守らないようにさせる練習であり、食事中に人間の方が上だから食器を取り上げても怒らないようにしつけるというのは少し犬には理解させることは難しいと思います。

ポイント!
特に、多頭飼育している場合はハウスの中でご飯を食べられるように環境を設定すると、他の犬とご飯の取り合いにならないで済みますし、取られる心配もなくなるので個々にゆっくり食事が出来るようになります。人もそうですが、ゆっくり食事を済ませた後は眠くなると思います。摂取した食物を十分に消化するためには体を休めた状態にしなければ効果的に栄養を吸収できないので、動物(人も同様)は食事をすると眠くなる機能を保持しています。犬たちも同様で食事の後はゆっくり休息をとってしっかり栄養を吸収しなくてはいけません。同居犬にご飯を取られるかハラハラしながら食べるのでは満足することは難しいですよね。

このように、食事とは食前から食後も重要で、特に食後に十分な休息が取れないと、摂取した食物を効率よく消化吸収することが出来ません。私が学生時代に行った犬の摂食行動の研究では、早食いの犬とゆっくり食べる犬では、ゆっくり食べる犬の方が食事後の満足感を感じていることがわかりました。動物には、体の状態を興奮させたりリラックスさせたりする自律神経という交感神経と副交感神経で調整する機能が備わっていますが、この自律神経を調べると、ゆっくり食べる犬の方が食事の後半から体がリラックスしている状態(副交感神経優位)に変化していくことがわかり、また、ゆっくり咀嚼して食べる犬の方が食事後は休息行動をとる時間も早いことがわかりました。ガツガツ早食いな犬たちは食べ終わった後でも興奮している状態(交感神経優位)が続いているので、なかなか休息することが出来ないことがわかりました。また、早食いの犬たちとゆっくり咀嚼して食べる犬たちでは、ゆっくり食べる犬たちの方が学習効率が高いことがわかりました。ガツガツ食べるような早食いの犬たちは、フードに対する執着が高過ぎるために、何か教えるときにフードという存在が誘惑刺激となるため、学習効率を悪くさせていることも考えられました。ただ、早食いの犬たちに食事を 5 分かけて食べさせる装置でフードを与えた結果、ゆっくり食べる犬たちと同様な神経活性に変化させることが可能であることがわかりました。
食事の前の適度な運動と、食事時間を 5 分に伸ばす工夫ができると、ガツガツ食べる犬でも、食が細い犬でも満足感を感じさせることは可能です。犬たちの食事をもっと楽しく、満足させてあげるためには、犬が持つ行動特性を十分に理解し、日常の生活の中で工夫することがお互いの幸せのために必要なことだと思います。

参考文献: Increased Feeding Speed Is Associated with Higher Subsequent Sympathetic Activity in Dogs
Nobuyo Ohtani, Yuta Okamoto, Kanako Tateishi, Hidehiko Uchiyama, Mitsuaki Ohta
PLOS Published: November 16, 2015
https://doi.org/10.1371/journal.pone.0142899

The Feeding Behavior of Dogs Correlates with their Responses to Commands
Yuta OKAMOTO, Nobuyo OHTANI, Hidehiko UCHIYAMA, Mitsuaki OHTA JVMS: 71 巻 (2009) 12 号 p. 1617-1621
https://doi.org/10.1292/jvms.001617